AP 150 years
さらに詳しく
JA
記事

「最も小さな時計の壮大なストーリー」

はじめに
塔時計からリングウォッチに至るまで、時計学の進化は長きにわたる小型化の探求と言えるでしょう。この物語の中心となる、1997年発表の「ミニ ロイヤル オーク」は、小さくて空想的、エレガント、そして遊び心に溢れた時計として、ある種独特な存在感を放っています。2024年、20年の時を経て、50万個の細かなホールの装飾が施され、20秒ごとに「目覚める」クォーツキャリバーを搭載した新たなバージョンに生まれ変わりました。

しばしば忘れがちなことですが、時刻はいつも腕元で確認されるものとは限りません。中世では、教会の鐘楼が時刻を告げる役割を果たしていました。その後懐中時計が生まれましたが、当初はとても分厚かったため“玉ねぎ時計”と呼ばれていたほどです。そして18世紀の終わり、啓蒙思想家たちが世界を変えようとしていた一方で、時計師たちはより小さなメカニズムを開発することで時計界を変えようとしていました。 1875年以降、オーデマ ピゲは洗練された美しさを伴う時計の小型化を進めてきました。より小さなサイズへの探求は常に創造的なものでした。ペンダント、ブローチ、リングに、この種のものとしては初めてとなる極小の複雑ムーブメントを搭載することから始まり、1921年には世界最小の5ミニッツ リピーター ムーブメントを、1927年にはマニュファクチュール最小のバゲット型ムーブメント、キャリバー5/6SB(15.9 x 5.8 x 3.3mm)を発表するなど、メゾンは数々の偉業を成し遂げてきました。 そして1976年、新たな転換期が訪れました。ジャクリーヌ・ディミエがオーデマ ピゲのデザイン部長となり、29 mmのロイヤル オークIIをデザインしたのです。このモデルは自動巻きキャリバー2062を搭載していました。1990年代には独創的なバリエーションが次々と展開されました。そして1997年には、わずか20 mmというXSサイズのミニ ロイヤル オークが登場します。その後3年の間にクリエイティブなバリエーションが数多く発表されてはやがて姿を消しましたが、しっかりとメゾンの歴史に刻まれています。そして2024年、大きなカムバックを遂げました。23mmのロイヤル オーク ミニ フロステッドゴールド クォーツがキャリバー2730を搭載して3モデルで発表されました。華奢な手首のお客様にもフィットし、クリエイティブな可能性を広げるトリオです。

まとめ

1

鐘楼時計から小さなピストル型時計へ

中世では、時計のメカニズムは非常に大型であることが多く、これを収めるための鐘楼と呼ばれる建物を特別に建てる必要がありました。しかし、小型化はやがて専門的な分野となりました。ルネサンス期、イギリスのエリザベス1世(1533-1603)は腕時計だけではなく、アラーム機構を指輪の中に隠した時計も所有していたと言われています!

小さなムーブメントには大きなクリエイティビティが発揮され、スカルやチューリップ、百合の紋章、貝殻、動物、星、八角形、そして十字架などをモチーフとした時計が次々と誕生しました。それはネックレスやベルトのように着用され、実用的なだけではなく装飾性の高いアクセサリーとなりました。そして次第に小型化が進み、装飾性も高まり、時計と宝飾品の中間のような存在となりました。

19世紀、いわゆる 「レピーヌ」キャリバーの普及により、小型化はさらに進みました。ラ・ショー・ド・フォンにある国際時計博物館には、厚さ1.18mmに満たないムーブメントを搭載した、1850年代の時計が展示されています!1851年、ジュウ渓谷出身の時計師アドルフ・オーデマは、ロンドンで開催された万国博覧会のために、長さ5.5mmの機能的なメカニズムを備えたマイクロピストル型時計を製作しました。過去2世紀にわたり、最も小さく最も薄いタイムピースの探求は変わることなく続いてきました。

2

さらに小さく、薄い、オーデマ ピゲ

時計製造業界においても、オリンピック競技と同様に、特定の重要な分野が存在します。職人たちは何世紀にもわたり、最も正確で(クロノメトリー)、最も複雑、そして最も小さい時計を開発するために競い合ってきました。もちろん、小さく、複雑で、正確であるという条件を同時にみたすことは非常に困難なことです。それはアスリートが100メートル競走とチェスの世界選手権、そしてカーリングで優勝するようなものです。

1875年の創業以来、複雑時計の名手であるオーデマ ピゲは、早くからミニチュアウォッチに情熱を傾けてきました。例えば1891年、オーデマ ピゲの時計職人たちはオンデマンドで時を告げる、直径わずか18mmのムーブメントを製作し、1921年には、15.8mmという記録を打ち立てました。
当時、このプロジェクトの責任者であった時計師は、彼の小さなノートに次のようなコメントを残しています:「価格に関わらず、このような作品は二度と生み出せないでしょう。」

複雑機構を追加しない時計は、さらなる小型化が可能になります。1927年、オーデマ ピゲは当時最小の機械式ムーブメント、キャリバー5/7SBを製作しました。ジュウ渓谷では激しい競争が繰り広げられ、それから2年後、隣接するLeCoultre & Cieがキャリバー101を開発したことで、その名声を確立しました。このキャリバーは現在もなお製造され続けています。
しかし、これ程までに小さなメカニズムを搭載した時計は、その小ささゆえに時間をほとんど読み取ることができません。

オーデマ ピゲはその後、1921年に厚さ1.32mmという記録を打ち立てた、キャリバー17SVF#5をベースとした超薄型キャリバーの開発に注力します。第二次世界大戦後、オーデマ ピゲは薄型時計を象徴するブランドとして確固たる地位を築きました。1958年には、生産量の約4分の3に、LeCoultre & Cieのエボーシュをベースにした厚さわずか1.64mmの超薄型キャリバー2003が搭載されていました。

超薄型時計の製造は、快適さ、軽さ、そして人間工学に結びついています。オーデマ ピゲは今日に至るまで、この特別な技術を発展させ続けています。

3

小径サイズの「ロイヤル オーク」

1972年当時、直径39mmの初代「ロイヤル オーク」は、非常に
大きなモデルでした。誕生に立ち会った人たちは、この時計が「ジャンボ」と命名されたとき、間違いなくぴったりな名前だと思ったことでしょう。しかし、この大きな時計には世界最薄の自動巻きキャリバーが搭載されていたのです...。

そしてオーデマ ピゲの時計職人たちは、間もなく小型バージョンを開発しました。1976年に発表された初の「ロイヤル オーク」レディースモデルは、直径わずか29mmでした。
その物語はこちらから。

当時、自動巻きキャリバー2062はエネルギー管理の面で限界に達しており、優れた性能を維持しながら直径を小さくすることは、ほぼ不可能なことでした。そのため、「ロイヤル オーク」の直径をさらに小さくするという課題に直面したオーデマ ピゲは、10年の間に
小型化において大きな進歩を遂げ、当時注目を集めていたクォーツ技術に着目しました。

1980年から現在に至るまで、直径29mmに満たない「ロイヤル オーク」モデルは100本以上発表されました。そして、すべてのモデルには例外なくクォーツキャリバーが搭載されています。以下は、「ロイヤル オーク」のクォーツモデルに搭載されたキャリバーの
全リストと、それぞれの直径です:

• 1978年から:キャリバー2511(長方形)

• 1980年から:キャリバー2502(26mm、30mm、35mm、39mm)

• 1981年から:キャリバー2511(長方形)

• 1982年から:キャリバー2506(35mm、36mm)

• 1983年から:キャリバー2505(35mm、36mm)

• 1983年から:キャリバー2612(30mm、33mm)

• 1984年から:キャリバー2711(30mm)

• 1985年から:キャリバー2508(33mm、26mm)

• 1986年から:キャリバー2610(24.5mm、25mm、27mm、28mm、30mm、33mm)

• 1994年から:キャリバー2710(24.5mm、25mm、27mm)

• 1996年から:キャリバー2712(33mm)

• 1997年から:キャリバー2601(20mm)

• 2012年から:キャリバー2713(33mm)

• 2015年から:キャリバー2716(37mm)

• 2024年から:キャリバー2730(23mm)

4

リトルマーメイドとライオンの子

1990年代、オーデマ ピゲは外観の美しさと技術的領域を深く探求しました。ジャクリーヌ・ディミエは、若手デザイナーのエマニュエル・ギュエの協力のもと、クリエイティブ部門の責任者として活躍していました。彼女の創造的な指揮の下、「ロイヤル オーク オフショア」は、テストステロンがみなぎる男性的なモデルで世界に衝撃を与え、クラシックな複雑機構を再び導入することで見る者を安心させ、また、ヴァガボンドアワーを新たに考案し、型破りな素材を採用することで人々を驚かせました。また、ジュエリーの分野でも数多くの自由なアイデアが採用されました。

ジャガー・ルクルトの極小キャリバー2601が採用された1990年代中頃は、クリエイティビティに溢れた時代でした。デザイナーにとって、1年以上のパワーリザーブを備えた、これほどに小型で正確なメカニズムを使用できることは、夢のようなことでした。フォルムや機能、修正など、さまざまな制約が一掃され、並外れたクリエイティブな自由が与えられました。

子供の頃の世界、無邪気で瑞々しい世界、鮮やかでポップな色彩の世界に戻っても良いのではないでしょうか。1990年代のオーデマ ピゲのアーカイブには、テディベアやライオンの子、アヒル、人魚、モデルカー、唇、目、羽時計、小さなハート、甘い言葉、初恋のシンボルなどの形をした時計など、想像を超えた宝物があります。

5

5. 1997年の「ミニ ロイヤル オーク」

エマニエル・ギュエがデザインしたミニ ロイヤル オークは1997年に誕生した。直径20mmという史上最小のバリエーションです。小型でエレガント、そして薄型のこの時計は、その極めて美しいバランスから、現在最も人気のある女性向け「ロイヤル オーク」のヴィンテージウォッチのひとつとなっています。

「ミニ ロイヤル オーク」は、初の「ロイヤル オーク グランドコンプリカシオン」と同時に発表されました。直径44mmというサイズは、これまでに作られた中で最も大きなものでした。コレクションの25周年を記念して、この伝説的なコレクションはサイズのバリエーションを押し広げました。クラシックな複雑時計でありながら、オーデマ ピゲ史上最小の小型クォーツキャリバー2601が搭載されています。ちょうどその頃、オーデマ ピゲは初の「ロイヤル オーク クロノグラフ」と初の「ロイヤル オーク トゥールビヨン」を同時に発表しました。

オーデマ ピゲではよくあることですが、アイデアは顧客の方々から生まれました。「ミニ ロイヤル オーク」の誕生は、当時ミニチュア時計の人気が高まっていた日本からの需要がきっかけだったと言われています。

 

6

2つのクラシックモデル

1997年から1999年にかけて、合計1965本の「ミニ ロイヤル オーク」が製造されました。2つのモデルの製造数は合計1803本と、全体の90%以上を占めていました。

最も人気があったのは67075モデルです。ジェムセットのケースではない、唯一のスティール製モデルです。このタイムピースは合計1254本製造され、そのうちスティール製が465本、イエローゴールド製が328本、ツートーン(スティールとイエローゴールド)モデルが272本、ホワイトゴールド製が101本、ピンクゴールド製が88本です。

ここでご紹介した文字盤のバリエーションの多くはアーカイブに記録されていませんが、当時の慣行から、より多様であったことがうかがえます。

これに次いで人気を集めたのは67076モデルです。
前述のモデルとの違いは、ベゼルに32個のブリリアントカットダイヤモンドがセッティングされているという点です。合計549本すべてにプレシャスメタルが使用されています:ホワイトゴールド製296本、ピンクゴールド製174本、イエローゴールド製79本。記録されているすべてのダイヤルにはジェムセットが施されています:アワーマーカーのみにジェムセットが施されていモデル、あるいは全体にダイヤモンドのパヴェセッティングが施され、ルビーやエメラルドを散りばめられたモデルもあります。

 

7

ハート、テディベア、そしてダイヤモンド

ライオンの子やマーメイドを象ったファンシーな時計の誕生です。「ミニ ロイヤル オーク」は、ハートやテディベアなど、可愛らしいモチーフを用いた24ものバリエーションが作られ、オートオルロジュリーの世界に遊び心を取り入れました。形状に関しては、八角形を採用する必要がありましたが、ケースにはカバーが取り付けられることもありました。あるモデルは指輪に、またはペンダントやラペルピン、さらにはカフスボタンに姿を変えることができました!

ここでご紹介するバリエーションのほとんどは、一般には知られていません。その理由は単純で、これら22モデルの製造数がそれぞれ10本に満たないという、極めて希少な製品だったからです。このうち、17のモデルは3本に満たないシリーズで、また12のモデルは一点ものとして製造されました。

本記事が発表される時点においては、オーデマ ピゲ ヘリテージ コレクションは、これらの時計を所有していません。本記事では、ブランドのアーカイブに保存されている、これらのモデルすべての識別写真、モデルの発売年、リファレンスごとおよび素材ごとの本数を記したリストを初公開します。

 

「ミニ ロイヤル オーク」

総数

ST

BA

100年

SA

OR

1997

67075

1254

465

328

101

272

88

 

67076

549

 

79

296

 

174

 

67202

13

 

 

13

 

 

1998

67077

88

 

14

48

 

26

 

67169

5

 

 

5

 

 

 

67173

15

 

5

6

 

4

 

67242

1

 

 

1

 

 

 

67243

1

 

 

1

 

 

 

67244

1

 

 

1

 

 

 

67289

2

 

1

1

 

 

1999

67287

8

 

 

5

 

3

 

67290

2

 

1

1

 

 

 

67291

5

 

2

1

 

2

 

67292

6

 

2

2

 

2

 

67293

2

 

1

1

 

 

 

67294

2

 

1

1

 

 

 

67295

1

 

1

 

 

 

 

67315

1

 

1

 

 

 

 

67316

1

 

 

1

 

 

 

67317

2

 

2

 

 

 

 

67318

1

 

1

 

 

 

 

67319

1

 

1

 

 

 

 

67320

1

 

 

1

 

 

 

67321

1

 

 

1

 

 

 

67322

1

 

1

 

 

 

 

67323

1

 

 

1

 

 

8

エネルギーをセーブするキャリバー

1999年以来、「ロイヤル オーク」のサイズはさらに大型化し続け、30mm以下のモデルは2004年以降姿を消しました。33mmモデルが唯一残り、その後2020年より34mmモデルが製造されています。しかし、「ミニ ロイヤル オーク」がクリスティーズ、サザビーズ、アンティコルムのオークションに出展されるたびに、人々に感動の嵐が沸き起こります。さらに、67075モデルがル・ブラッシュのオーデマ ピゲ美術館に展示されて以来、この時計の来館者からの人気は不動のものとなりました。

そして「ミニ ロイヤル オーク」ウォッチをリバイバルさせるというアイデアが少しずつ浸透していきました。しかし、かつての2601のような小型キャリバーが存在しないことを考慮すると、それは実現可能なのでしょうか?さらに、このような製品の修理はカスタマーサービス部門にとっても課題となるものでした。こうしてオーデマ ピゲは、優れた自律性を持つ小型のクォーツ機構を選択したのです。

時計の電池寿命を延ばすため、キャリバー2730はほぼ常時スリープモードになっています。約20秒ごとに作動し、針をわずかに前進させた後、再びスリープモードに戻ります。何度も繰り返される小休憩の間、常に動いているのは、ムーブメントの中心に配された小さなクォーツの振動だけです。まるで深い眠りの中で、前方に数センチ動くために20秒ごとに目を覚ます怠け者の心臓のようです。スピードはありませんが、長期間持続します。この方法はエネルギーを節約し、バッテリー寿命において7年間に相当する自立性を保証します。特筆すべきは、リューズを引き出し時計を一時停止させることで、パワーリザーブをさらに延長できる点です。

9

ミニ伝説の復活

キャリバー2730に使用される技術は、キャリバー2601よりもわずかに広いスペースを必要とします。直径23mmの「ロイヤル オーク ミニ」は、1997年の先代モデルよりもかろうじて大きいだけで、同時代の時計に比べるとほぼ小さくなっています。
もちろん、軽やかで優雅、そしてカジュアルであることは言うまでもありません。

2024年に発表されるのは、ホワイトゴールド、ピンクゴールド、イエローゴールドの3バージョンです。ケースとブレスレットはメイランにあるオーデマ ピゲのマニュファクチュールで製造されています。そこでは、イタリアのジュエリーデザイナー、キャロリーナ・ブッチにインスパイアされ、2016年にオーデマ ピゲに導入された、「フロステッドゴールド」技法が用いられています。

「フロステッドゴールド」仕上げは、ダイヤモンドを使用したハンマリングまたはパンチング技術の一種です。カットダイヤモンドがついた小さなハンマーを使用して、金属の表面に凹凸をつけることことから、イタリアではディアマンタトゥーラと呼ばれています。ダイヤモンドにはファセットがあるため、小さくて非常に滑らかな面がそれぞれのホールに構成され、鏡のように光を反射させます。その結果、鮮やかな輝きが生まれるのです。「ロイヤル オーク ミニ」のケース全体をカバーするためには、非常に多くのホールを開けなければなりません。職人の計算によると、1つの時計につき約50万回のハンマリングが必用となります。

新作「ロイヤル オーク ミニ (67630)」は2024年6月、オーデマ ピゲがミラノの中心部で開催したエキシビションで発表されました。
この場所が選ばれたことは、「ロイヤル オーク」コレクションと、その起源となるイタリアとの歴史的な結び付きを思い起こさせます。

オーデマ ピゲ ヘリテージ チーム、2024年5月。

関連コンテンツ